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更新日:2025年8月15日
山梨県といえば、雄大な富士山を筆頭に、南アルプス、八ヶ岳、奥秩父連峰など、日本を代表する名峰に囲まれた山岳県です。しかし、その魅力は3,000m級の山々だけではありません。標高1,000m台の初心者にも優しい山々にも、心揺さぶられる絶景が数多く存在します。
そこで、日帰りで気軽に登れて、さらに美しい富士山を望める山を厳選! 山梨県在住の山岳ガイド・杉本龍郎さんが選ぶ「甲斐の国 日帰り富嶽21名山」と題し、全21座をめぐる連載をスタートします。第1回は、富士山の眺望で知られる人気の山、「三ツ峠」を紹介します。
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この記事を書いたのは・・・
杉本 龍郎(Tatsuro Sugimoto)
1988年生まれ。韮崎市在住。日本山岳ガイド協会認定山岳ガイドⅠ。スイスを拠点にしたヨーロッパアルプスや、ニュージーランドでのトレッキングガイドを経て、現在は韮崎市を拠点に山岳ガイドとして日本全国の夏山から雪山まで幅広く活動。ツアー会社での登山のツアーも多数担当。2018年春にヒマラヤキャンプ隊にて、未踏峰パンカールヒマール(6264m/ネパール)に登頂。今後も個人の登山として海外遠征を精力的に行っていく予定。
三ツ峠山頂からの眺め
山梨の山の中で富士山を綺麗に望める山は数多くありますが、その中でも三ッ峠は間違いなく上位に入る山です。河口湖を挟んですぐに富士山があるため、三ッ峠山頂からは間近に大迫力の富士山を望むことができます。
三ッ峠とは、一般的に三ッ峠山頂とされていて三角点のある開運山(1785m)、カチカチ山ロープウェイに少し下りた場所にある木無山(1732m)、北に少し奥まった場所にある御巣鷹山(1775m)の三山の総称です。「峠」となっているのは尖った山を意味する「ドッケ」からきていると言われています。三つ峠駅から達磨石登山口まで歩く道中からはその名の通り3つの峰を望むことができます。
道中から見える3つの峰
三ツ峠(開運山)は標高1,785mと、全国的には決して低い山ではありません。しかし、日本一の富士山をはじめ、3000m峰が連なる南アルプスや、2000m台後半の山々を抱く八ヶ岳や奥秩父山塊に囲まれている山梨県の中では、そこまで高い山というわけではありません。
そのため、最短のルートで登れば、登山口から1時間半ほどで山頂に行けるというのも魅力の1つです。特に夏の気温が高い時期は雲がどんどん湧いてくるので、雲で隠れてしまう前になるべく短時間で登って富士山を眺めたいと思うのですが、そんな時にはこの三ッ峠登山口から登るこのルートがおすすめです。
富士河口湖町、西桂町、そして都留市と3つの市町村にまたがる広大な山域を誇る三ッ峠ですが、登るルートも上記以外にもたくさんあり、その時の気分や体調、天気に合わせてルートを選ぶことができます。
ここでは、ルートを簡単に紹介します。
先ほど紹介した、富士河口湖町の「三ッ峠登山口」から登るルートです。登山口が旧御坂トンネルに向かう林道上に位置し、河口湖駅からバスも出ていてアクセスが良いのが特徴です。このルートは、その上にある三ッ峠山荘や四季楽園といった山小屋のスタッフがジープで通る道のため、登山道というよりは幅の広いダート道になっています。最短で山頂を目指すのであればこのルートがおすすめです。
『達磨石』高さ183cm、幅178cm、奥行150cmの巨大な自然石
西桂町の達磨石には大日如来を表す梵字の「アーク」が刻まれており、その奥深い歴史を感じながら登れるのがこのルートの醍醐味です。ルート上には愛染明王塔や、江戸時代に三ッ峠の再興に尽力した空胎上人(くうたいしょうにん)のお墓や、四国八十八箇所を模して造られた八十八大師、空胎上人により再建された神鈴権現社などがあり、三ツ峠の歴史を色濃く残す史跡が点在しています。
空胎上人(くうたいしょうにん)のお墓
八十八大師
また、"股のぞき"など随所に富士山を望むことのできる休憩場所もあるのが登山者にやさしいポイントです。
頂上直下では最近ロッククライミングで人気の屏風岩を仰ぎ見ることができます。富士急行の三つ峠駅から歩いて行けるのも魅力の一つです。
「屛風岩」標高差130m、幅750mのほぼ垂直な壁
初滝、三段の滝、大滝、七福の滝、白竜の滝といった滝を望みながら登るルートです。道が不明瞭であったり、ゴロゴロとした岩の上を歩いたり、急斜面をトラバース(横断)しなければならない箇所があるため、山の総合力が問われる上級者向けとなっています。
標識が倒れていたり、ピンクテープが登山道上以外にも貼られていたりと、ルートファインディング(地図やコンパス、目印、地形図を読み解き、目的地までの安全で最適なルートを見つけ出す技術)をしっかり行うことができないと厳しいルートです。
山そのものの難しさや、アドベンチャーな山行を楽しみたい方にはおすすめです。
他にも、河口北浅間神社から登り、最近パワースポットとして話題の、富士山と赤い鳥居を望むことができる”天空の遥拝所”と”母の白滝”を通って頂上を目指すルートや、富士山パノラマロープウェイを使って天上山経由で頂上を目指すルートもあります。
また、先述の通り、山頂近くには山小屋が2軒あるため、日帰りではなく山小屋に泊まってゆったりとした時間を過ごしつつ、朝陽や夕陽に照らされる富士山の景色や、夜の星空や夜景を楽しむのも贅沢な山行になるかと思います。
さらに、熟達者になれば北口登山道の谷を流れる四十八滝沢を登ることもでき、夏は沢登り、冬は凍った滝を登るアイスクライミングを楽しむことができます。これらのルートは地図に表記されている登山道ではなく、「バリエーションルート」と言われる地図に表記されていないルートです。
最近は屏風岩でのクライミングを楽しむ方々も大勢いらっしゃり、富士山をバックにクライミングするのはとても気持ちが良いです。世界で初めてヨーロッパの三大北壁を完登した長谷川恒男さんもかつてはこの屛風岩にてトレーニングに励んでいたことで知られています。
ロッククライミングで人気のポイント
日帰りで行ける1000m台の山でこんなにも多くのルートがあり、山小屋泊もあり、バリエーションルートまで楽しめる山はなかなかありません。ぜひ、皆さんもいろいろなルートから山頂を目指して、思う存分三ッ峠を楽しんでいただければと思います。
写真提供:杉本 龍郎 氏
<山梨県内の山へ入られる方へ>
山林に入る場合は、クマの出没にご注意ください!山梨県では、県内のツキノワグマ出没マップを公開中。また、ツキノワグマの出没情報の速報などをXにて発信しています。
詳細は以下よりご確認ください。
こだわりの地産・特産の商品が並ぶにぎやかなマルシェから、地産地食を味わうレストランまで、富士・山梨の魅力をまるごと楽しむことができます。お土産の購入に最適です。
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施設情報 |
山梨の郷土料理であるほうとうが食べられます。店内にはかつて甲斐の国を治めていた武田氏の甲冑が飾られており、歴史好きには堪りません。富士山の眺望も抜群です。
富士山の伏流水を使用した日帰り入浴施設。露天風呂からは雄大な富士山を望むことができます。
2019年に埼玉から山梨に移住しましたが、その理由は、ズバリ山や自然の素晴らしさにあります。山梨に引っ越してくる以前から登山ガイドとして山梨にはよく通っていました。その時から富士山や南アルプスほど名が知られていないけれど、魅力的な低山がたくさんあると感じていました。富士山や南アルプスなどは標高が高いことや山の難易度からも日帰り登山は難しいのが現実のところです。しかし、低山であれば日帰りで登ることができます。さらに山梨の山は低山ながらも多くの山から富士山を見ることができます。
そこで、日帰りで登頂ができること、富士山を眺めることができる山を【甲斐の国 日帰り富嶽21名山】として選定しました。山梨県内のいろいろなエリアの山に登り、富士山を堪能した後は、その土地にある温泉や食事、名産品などを楽しんだり、近くの観光スポットに立ち寄ったりして、山梨を存分に満喫してください。山梨の山の魅力は高くそびえる山だけではなく、低くても富士山を眺められる魅力に溢れている山がたくさんあることだと思います。
山名 | 標高 | 市町村 | |
1 | 国師ケ岳 | 2,592m | 山梨市 |
2 | 甘利山 | 1,731m | 韮崎市 |
3 | 櫛形山 | 2,052m | 南アルプス市・富士川町 |
4 | 黒岳 | 1,793m | 笛吹市 |
5 | 大菩薩嶺 | 2,057m | 甲州市・丹波山村 |
6 | 竜ヶ岳 | 1,485m | 富士河口湖町・身延町 |
7 | 足和田山 | 1,355m | 富士河口湖町 |
8 | 石割山 | 1,413m | 山中湖村 |
9 | 日向山 | 1,660m | 北杜市 |
10 | 茅ヶ岳 | 1,704m | 韮崎市・甲斐市 |
11 | 羅漢寺山 | 1,058m | 甲府市 |
12 | 大蔵経寺山 | 716m | 笛吹市 |
13 | 三頭山 | 1,531m | 上野原市・小菅村 |
14 | 大蔵高丸 | 1,781m | 大月市・甲州市 |
15 | 三ッ峠山 | 1,785m | 西桂町・富士河口湖町 |
16 | 岩殿山 | 634m | 大月市 |
17 | 杓子山 | 1,598m | 富士吉田市・都留市・忍野村 |
18 | 蛾ヶ岳 | 1,279m | 市川三郷町 |
19 | 身延山 | 1,153m | 身延町 |
20 | 高ドッキョウ | 1,134m | 南部町 |
21 | 御正体山 | 1,682m | 都留市・道志村 |
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