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更新日:2025年6月3日
日本ワイン生産量及びワイナリー数日本一の山梨県。日本国内で栽培され醸造されたワインを日本ワインと呼ぶが、山梨県だけでもその数100ワイナリーになる。昨今注目されているのは、小規模ながら作り手が葡萄栽培をして醸造。販売まで手掛ける個性のあるワイナリーだ。流通量が少ないゆえ、まださほど知られてはいないのにワイン好きの間では人気が上昇している。今回はそんな4つのワインナリーと入手困難なワインが飲めるお店をご紹介。
ペイザナ農事組合法人 代表理事 小山田 幸紀さん
『ドメーヌ・オヤマダ』のワインは買おうとしてもどこにもない。
ファンはいつもリリースされるのを待ち、リリースと同時に売れていく。オヤマダワインファンの数に対して生産数が圧倒的に少ないのだ。生産数が少ない理由は、自社畑での有機栽培の葡萄にこだわり、厳しいナチュールの製法で醸造まですべて一貫で作っている。小山田幸紀さんはたった一人でスタートしたが、今は若手社員と研修生の力を借りている。とはいえ有機葡萄造りからリリースまで一貫してつくることは並大抵なことではない。
小山田さんは「一貫して作ることが『ドメーヌ・オヤマダ』の正統派ヴァンナチュールの味の違いです」と言葉少なに語る。
『ドメーヌ・オヤマダ』として独り立ちして10年。
中央大学の文学部ドイツ文学科を卒業。在学中に日本ワイン醸造の父と呼ばれていた麻井宇介さんに出会ったことがきっかけでワイン造りの世界に飛び込む。山梨県笛吹市にあるワイナリー「ルミエール」に16年間勤務。
勤務時代に醸造を任せられていた小山田さんのワインは、ソムリエやワイン好きから注目され名前が知られる存在だったそうだ。
勝沼の醸造所から見える南アルプスの山々
現在は山梨と長野に3ヘクタールの畑を持ち、すべて有機栽培で葡萄作りをしている。苗から育ててきた葡萄がワイン用の葡萄として安定していくには時間が必要だ。
「10年やってみても品種と土壌と醸造は試行錯誤。どのぶどう品種がこの土地に合うかわからないので、さまざまな品種を植えています。品種と土壌が淘汰されるまで何十年もかかります。生きているうちに答えはでないかもしれません」
そして“当たり年”は少なく昨年も悪かった(2024年)という。
だから醸造は年ごとに収穫する葡萄によって変えている。
「“はずれ年”は葡萄の風味が軽いので、仕込むときに一段と軽くして作ります。逆にいい年は、深くて強い風味になっていくので抽出を変えることでさらなる良さを引き出します。毎年収穫される葡萄に寄り添ってワインを生んでいく感じですね」
『ドメーヌ・オヤマダ』のワインをいくつか紹介しよう。
毎年収穫した年の翌年の2月にリリースする「BOW」。いわゆる新酒という立ち位置で比較的手に入りやすいといわれている。
「万力」は、醸したオレンジ色が特徴。山梨市万力地区の南西向きの斜面につくられた段々畑の葡萄を使用。甲州、プティ・マンサン、シュナン・ブランの3品種が同じ畑に混植されている。
「日向」は、山梨市江曽原日向にある、冬でも暑さを感じるほど日当たりが良い南向きの斜面で作られている。シラー、ムールヴェードル、タナなどの品種で構成。ワインのコンセプトは「南の太陽」を想起させる力強いワイン。
「洗馬」は、赤も白も生産。長野県塩尻市洗馬にあり標高約700 mで、晴天日数が多く、夜の気温が低くて酸を維持できるなど、ブドウにとってまさに理想の土地。この畑から生まれたワインのコンセプトは「北のエレガンス」。白ブドウは新たにピノグリ、セミヨン、サヴァニャンの若木のブドウがブレンドされている。黒ブドウは新たにカベルネフラン、トゥルソー、ムールヴェードルの若木のブドウがブレンドされている。
ここでご紹介したワインも、残念なことに今はほとんど手に入らない。入手手段としては、『ドメーヌ・オヤマダ』ワインを取り扱っている酒店に問い合わせしてリリースを待つか、WEBサイトで入荷のお知らせをインフォメーションしてもらうのがよい。
まずはこの後ご紹介する『ドメーヌ・オヤマダ』が飲めるレストラン「エリソン・ダンジュール」で食事とともに楽しんでもらいたいが、マダムにインタビューしたときにこんなことを言っていた。
「他にはない本当に素晴らしいワインなのに、なぜこんな安い価格設定なのか聞いてほしい」(笑)と。
小山田さんはいう。
「この価格でも私たちは充分な暮らしができるからいいんです。逆にこれ以上の生産をするつもりもありません」と。
小山田さんは若手醸造家の育成にも力を入れており、「ペイザナ農事組合法人」を立ち上げ共同醸造の形で技術継承を行っている。栽培から醸造まで一貫して生産するヴァンナチュールの夢は継承されていく。
『ドメーヌ・オヤマダ』を立ち上げて10年。過去一番の当たり年は2023年だったという。瓶詰めはこれからだそうだ。どんなワインが市場へリリースされるのか本当に楽しみだ。
甲州市勝沼町にある中央本線「勝沼ぶどう郷駅」から山へ向かって上ること車で5分。渓流のせせらぎ、木漏れ日、野鳥のさえずりに包まれた森の中にひっそりとたたずむ一軒家フレンチレストラン「エリソン・ダン・ジュール」
ご夫妻ともフレンチレストラン出身で2000年に塩山市でスタート。2011年からこの森に囲まれた一軒家で営業している。
山梨の地元野菜、ワインの搾りかすで育ったワインビーフやワインを飲ませたワイン豚、八ヶ岳名水赤鶏などを使用。食材の良さを生かしたシックなフレンチだ。
オーナーシェフの中村裕さん
メイン料理の中でも冬から春にかけてのジビエはスペシャリテになる。ハンターでもあるオーナーシェフが自らとった雉や鳩の料理は絶品で、『ドメーヌ・オヤマダ』の人気ワイン「日向」ととてもよく合う。
「小山田さんのワインは作り手の個性が見えるんです。出来た年の葡萄の味がわかるっていうんですかね。一定の味をキープするのではなく、毎年天候や葡萄の出来を生かしているので、あー今年はこう来たか!みたいな自然の恵みをいただくワインです。葡萄栽培から醸造まで自社畑の葡萄だけでやっているワイナリーだからできる味だと思います」と語るのはマダムの美里さん。
ワインリストも充実している。山梨の小さな作り手による入手が難しいワイナリーのワインも多い。フランスワインも加えると70種類以上を常時取り揃えている。
昼のメニューは4500円から、夜のメニューは6000円からのおまかせコースのみ。常連のお客様は県外からも食べにくる。
なかなか手に入らない『ドメーヌ・オヤマダ』のワインを、地元食材を活かしたフレンチでゆっくりいただくのはなんと至福の時間だろう。
夏でも涼しい近隣の森では、野鳥や野生動物が見られるというのも一興。
また、時期によっては『ドメーヌ・オヤマダ』のワインを買って帰ることができるのも嬉しいサービスだ。
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施設情報エリソン・ダン・ジュール 山梨県甲州市勝沼町中原5288-3 電話番号:0553-39-8830 |
インタビュアー&文 内山しのぶ 山梨県甲州市勝沼町生まれ。やまなし大使。1989年編集者として(株)世界文化社入社。女性誌『家庭画報』副編集長を務めた後、料理雑誌『家庭画報デリシャス』編集長。『MISS』『MISS ウエディング』『きもの Salon』『GOLD』の編集長を約 12 年間務める。2016年~現在 (株)集英社HAPPY PLUS STORE サイトにてコンテンツマネージャー。アーティスト本の企画編集刊行なども務める。 料理家として、調理師免許、国際中医薬膳師、マクロビオティックコンシェルジュ、オーガニック料理ソムリエなどの資格を持ち、料理雑誌や企業の刊行物にレシピを寄稿。自宅アトリエでヌーヴェル薬膳料理教室をオープン。著書に料理本『しのぶ亭へようこそ。編集長のおうちごはん』がある。 2019年甲府市・昇仙峡の再活性化をめざす「昇仙峡リバイバル会議」でアドバイザーを務め、「お座敷列車で行く山梨県峡東ワインリゾートツアー」など山梨のPRに関わる。 |