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更新日:2026年4月14日

笛吹市一の沢遺跡

【縄文さんぽ Vol.3】土器の中にひそむモノ―山梨で出会う縄文の物語

縄文の遺跡を掘ると、たいてい山ほどの土器が出てくる。おそらく、縄文土器がまったく出ない縄文時代の遺跡などないのではないか。それほど土器は、彼らの暮らしに欠かせない存在だった。
なにしろ、縄文土器は彼らの調理具のほとんどを占めるくらいのお鍋だ。それを使ってドングリなどのアクを抜いたり、肉をやわらかく煮たりすることによって、それまでよりもはるかに多くの食材を活かせるようになった。そのことが、西アジアの新石器文化と違い、農耕をしなくても一年を通して同じ場所に住み続けられた理由のひとつと考えられている。
けれど、土器の役割は命をつなぐだけではなかったようだ。炎のうねりや水の流れを思わせる立体的で大胆な造形、器面を埋めつくす原始の文様。実用品の枠をはるかに超えた表現が、私たちの心を強く引きつける。その理由は、単なる造形のすごさだけではなく、そこに“縄文の物語”の気配を感じるからだ。
今回は、その世界への入り口をそっと覗いてみたい。

※トップの写真は笛吹市一の沢遺跡【展示施設:山梨県立考古博物館】

この記事を書いたのは・・・

筆者

山梨県 文化振興・文化財課

主任・文化財主事
佐賀桃子

大学で縄文を学び、縄文遺跡の多い山梨へ就職。縁もゆかりもなかった山梨だけど、今は豊かな自然やここで暮らした人々の生活にトキメキが止まらない。山梨の縄文をみんなに広めたい。

1. 土器の中に息づく生き物たち

縄文土器は、形も文様も驚くほど個性豊かだ。特に、遺跡の数がいちばん増える縄文時代中期(約5,300〜4,500年前)の造形は圧倒的である。ここでは、その中でも「生き物」が登場する土器に目を向けてみる。

まずは、この土器を見てほしい。同じ生き物が登場しているのだが、わかるだろうか。

縄文土器の写真1

 

答えは・・・

縄文土器の写真1の回答

カエルだ。どのカエルも、だいたい似た姿で土器に“ぺたん”と張り付いている。愛嬌のあるような、不思議なような、そんな存在感だ。

次に、別の土器を見てみよう。ここにいる生き物は何だろう?

縄文土器の写真2

 

正解は、ここ。

縄文土器の写真2の回答

同じヘビでも、土器の縁を這うもの、上の方でとぐろを巻くもの、突起に沿って伸びるもの…姿も位置もさまざまだ。しかし、どれも勝手気ままに描いたわけではないように見える。それぞれの場所に、その姿でヘビを表すことは、彼らにとって重大な意味があったのだろう。ヘビを「ただの飾り」として扱っていない気配がある。

もうひとつ。少しデフォルメされているが、この動物は何だろう。

縄文土器の写真3

 

正解はイノシシだ。

縄文土器の写真3の回答

丸みを帯びた体つきや突き出た鼻、そして立派なたてがみは、どこか愛嬌すら感じさせる。縄文人にとって、イノシシは重要な食料であると同時に、身近な“隣人”でもあったのだろう。また、イノシシは多産で一度に4~5頭を出産する。実際に大小複数のイノシシを描くこともあり、もしかしたら多産にあやかろうとしていたのかもしれない。

2. 土器に動物をえがいた理由を思う

縄文遺跡から出てくる動物の骨から、当時の人々のそばにどんな生き物がいたのかわかる。いちばん多く見つかるのはイノシシとシカ。そのほか、ウサギや鳥といった小動物の骨もよく見つかっている。

けれど、どれだけ身近な存在だったとしても、土器に登場する動物は限られている。不思議なことに、山梨を中心とする地域では、ヘビ、イノシシ、そしてカエルの姿を表した土器がとても多いのだ。自由に造形できたのなら、かわいらしいウサギや、堂々としたクマがもっと登場してもよさそうだし、狩猟の成功を願うならシカの造形が増えてもよさそうなのに。そうならなかったということは、きっと理由があるのかもしれない。

動物たちはそれぞれの土地の文化の中で固有の役割を担っていたのだろう。神話の登場人物であったり、祖先を象徴する存在だったりした可能性はある。けれど、そこに込められた具体的な意味は、どれだけ研究してももうわからない。彼らがどんな物語を語り、どんな世界を思い描いていたのか…その一番大切な部分が、私たちには残っていないからだ。

3. 失われた物語の断片をたぐりよせる

今回紹介したヘビ、イノシシ、カエルは、現代の私たちにもはっきりとわかる姿をしている。けれど縄文人は、それ以外の生き物や植物、水や風といった自然の気配までも、私たちには読み取れない形で土器に織り込んでいるかもしれない。

季節は春を迎えた。冬眠から目を覚ましたヘビやカエルが動きはじめ、イノシシが山の斜面を軽やかに駆ける頃。桜やすもも、桃が次々に咲き、甲府盆地を春色に染め上げる。華やかな季節の訪れを感じながら、ぜひこの土地を訪れてみてほしい。縄文人が残した世界が、きっとどこかであなたを待っている。

春の釈迦堂遺跡博物館

春の釈迦堂遺跡博物館

記事に登場した土器に出会える場所

関連サイト

山梨県埋蔵文化財センターでは、県内の遺跡情報を幅広く発信しています。縄文時代をテーマにしたイベントも随時開催されているので、ぜひチェックしてみてください。

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